近所の本屋で買って帰った雑誌をパラパラとめくる。インターネット上の「街」を「肉迫」させる男として俺と同い歳の男が3ページに渡って特集されていた。最初は「流行のIT社長か?」く゛らいに流して読んでいたが、書いてある文章のいくつかが記憶に引っ掛かり彼のプロフィールを見てみると、「ああ、やっぱり。」
10年前に海外のハードコアバンドを地元でサポートした時の対バン「スウィッチスタイル」のメンバーだった。彼は今では従業員142名を抱えるIT会社代表取締役。俺は社長机の前で腕組みして立つ彼の写真を眺めた。そしてすぐに歌詞カードやCD、マイク、楽器が散らばった自分の部屋を見渡して不思議と静かな気持ちになった。
俺の手にはまだ何もない。
なんてありがたいことか。